アパレルの過酷さは色々
前のアパレルの職場に某大御所スタイリストがディレクターという立場でちょくちょくお店にきていた。
私はまぁまぁに厳しかった新人時代を経て、一番力を入れてる店舗に配属されてそのスタイリストと仕事をする機会が増えた。
やはりものすごいセンスはあるし、業界人のお知り合いも多いし、数々の流行を生み出して業界をのし上がってきた方なので、色んな意味でものすごく勢いのある方だった。
拡散力もさる事ながら喋り方、歩き方すべてに勢いがあった。
でも、たまーにごくまれーに常人では理解できないスタイリングもあった。
そんな方がいつものように突然お店にやってきた。
そう。予告なんてしないで嵐は突然やってくる。
その人がくると全ての作業がストップし、店内のディスプレイチェックが始まり、全員のファッションチェックが恒例。
しかし、その日はいつもとちょっと違った。
彼女は急に即興劇で一人でお客さんと販売員を演じだし、私達に接客とはなんぞやを教え始めた。
甲高い声をあげて店の真ん中で一人行ったり来たり、とにかくバタバタしながら演技してる。
もう内容なんて1ミリも頭に入らないくらいカオスすぎて全員ジッと終わるのを待っていた。
幸いお客さんは店内におらず私達だけだったのだが、自分が何にも知らないお客さんなら開けた扉を閉めたくなるくらい怖かった。
即興劇が無事(?)に終わり、店内チェック。
店長はそんな時に限っていないから本日の責任者の私がぴったりとお供しながら、彼女がハンガーごと床に落としていく洋服を拾ってアシストする。
普段から洋服のシワ、糸くずなどにうるさい彼女は容赦なく気に入らない場所にある洋服を床に捨てていく。
召使いでももっとマシな扱いだよな…と思いながらもとにかく必死で拾う。
そして仕上げのファッションチェック。
全員色々とアドバイスを受け、最後の私の番。
その日私は白いノースリーブのコットンレースのつなぎを着ていた。
「そーねー〇〇ちゃんは背が低いからぁ…」
と、手にしていた大判の派手なスカーフを私の腰に巻き付けだした。
後輩達の見守る中、鏡を見るとそこにはキャッツアイがいた。
誰がどう見ても完全にキャッツアイ。
頭の中で「みーつめるキャッツアイ♪」がエンドレスリピート。
え?まさかこれで終わり…?と呆然としてると
「ね!これでバランスが取れてよくなったでしょ〜!!!」と言われ、鏡越しに後輩達を見ると誰一人私と目を合わせずに口々に
「かわいいです!流石です!!」とかなんとか言ってるし後ろにいる子なんてうつむいてニヤニヤしてる。
そしてまだ彼女は私のパンツの裾を上げたり下ろしたりしてなんか言ってる。
もう帰ってくれ…!この布を早く取らせてくれ!!!
と心の中で願っていると、願いが届いたのか彼女はお腹が空いたからあとよろしく〜と言い残し帰って行った。
その後すぐスカーフを剥ぎ取りたかったけど、やつはご飯を食べてからまたくる可能性があるので2〜3時間はキャッツアイとして働いた。
後輩達は「大変でしたね…」と、労うふりをしてニヤニヤしてる。
「思ってないでしょ!?これ、完全にキャッツアイだよね!?」と言ってみんなで即興劇の真似をして爆笑しながら一日ふざけてすごした。
大変だったけどまぁそれなりに毎日楽しかったなぁー。
でも二度とキャッツアイはごめんだね。